しもばの放浪日記

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UK&アイルランド自転車紀行〜ウェールズ、そしてイングランド〜
アイルランド
↓2011.11.18
ウェールズ
↓2011.12.01
イングランド




羊が列を作っていた。

ダブリンから船でウェールズ北部のHolyheadへと入港。
「ウェールズといえば羊」
この言葉は旅の随所で聞かされていたが、果たして走り始めた初日に先に述べたような景色に出くわした。羊飼いもいないのに一直線に同じ方向へ歩いてゆく。なんとも不思議な光景である。

この国での自転車旅は坂道との戦いだ。起伏に富んだ地形のためアップダウンの連続である。今まで走ってきたアイルランドが比較的平らだったせいもあって、ものすごく体にこたえる。なるほど、確かに牧草地は多い。見渡すと遠くの丘にも羊が点在している。恐らく、この国も周辺に負けず劣らず雨が多いのだろう。自分は運良く悪天候には出くわさなかったが、
「こんなに天気がいいのは奇跡的だ」
皆口々にそう言っていた。

面白いことに、イングランドでもスコットランドでもアイルランドでも、人々は天候の悪さには慣れたもので、
"It's English(Scottish/Irish) weather."
と皮肉っていた。当然この国では
"It's Welsh weather."
となるのだろう。ちょっと天気が良くなると
"Lovely weather."
とか言って嬉しそうにしているのも共通している。ともあれ、こうしてイギリスをグルっと旅してみると、ロンドン周辺は比較的天候がマシな地域にも感じられる。ウェールズの山々が西から流れ込む雲をある程度せき止めてくれるのかもしれない。

確かにスコットランドも山がちな地形ではあった。だが、広大な土地がどーんと広がるスコットランドに対して、ウェールズは狭いエリアに多くの山ががひしめいているイメージ。南部に位置しているためか鬱蒼とした林も多い。走りながらどこか懐かしさを覚えた。まるで日本を旅しているような既視感に襲われるのだ。実際はかなり違うのだろうが、こんなに木々に覆われた山を見るのは実に久しぶりな気がする。





ブリテン島の先住民であったケルト人がアングロ・サクソンに追われ西部の山岳地帯へと逃げ込んだ。それがウェールズという国家の基礎となったと言われる。だが、13世紀末には早くもイングランドに併合。イングランド王太子は『プリンス・オブ・ウェールズ』を名乗るなど、古くから事実上イングランドに含まれる存在として認識されてきた。現に、イギリス国旗であるユニオン・ジャックはイングランド国旗とスコットランド国旗、そしてアイルランドのシンボルとされた聖パトリック旗が融合したものであり、ウェールズの国旗はその中に含まれていない。そんな背景もあって、個人的には"United Kingdom"を構成する国の中では最も影の薄い存在に感じていた。だがやはり、ウェールズ人のウェールズ意識は非常に高いものがあったのである。

ウェールズで触れなければならない存在、まずは『赤い竜』であろう。ウェールズ国旗にも描かれているこの竜は、ケルトの伝承を起源としているらしい。このようなモチーフ入りの旗はヨーロッパの国旗には非常に珍しいように思う(ひょっとすると世界的に見ても稀有かもしれない)。このドラゴン、とにかくウェールズの至るところでお目にかかることができる。市庁舎や記念碑などはもちろんのこと、あるときはバスの側面に、あるときは砂糖の包み紙に、まさにウェールズのシンボル的存在なのだ。小さな村で子供が竜のぬいぐるみを抱えて歩いているのを見たときは恐れ入った。こうして民族意識が育っていくのであろうか。

ウェールズの首都、カーディフにたどり着いた。通ってきたのが山間の田舎町ばかりだったので、ものすごい大都会に来たように感じられる。それもそのはず、カーディフを初めとして、ウェールズの人口の3分の1は南部の海岸沿いに集中しているのである。このカーディフ、イギリスの中では比較的新しい都市らしい。産業革命の頃、ウェールズには多くの炭鉱が存在した。 そしてカーディフは石炭の積み出すための港町として重要な拠点となってゆく。産業革命によってこの町は発展した。そしてウェールズの石炭もまた、イギリスの産業を支えたのである。



カーディフの街のど真ん中に、一つの大きなスタジアムがある。『ミレニアム・スタジアム』。サッカーの国際試合も行なわれるが、この国では“ラグビー場”という表現の方が適当だろう。そう、ウェールズはラグビーが非常に盛んな土地柄であり、実際スタジアムの所有者もウェールズ・ラグビー協会であるらしい。先にニュージーランドで行われたラグビーW杯、準決勝の『ウェールズ×フランス』戦ではこのスタジアムに集まってスクリーン観戦する人々の姿が映し出されていた。スタジアムから川を挟んだ真っ正面に一軒のホステルがあった。レセプションの兄ちゃんはテレビで流れるラグビーの試合を熱心に目で追っている。
「ラグビーが国技の国はニュージーランドとフィジー、そしてここウェールズだけなんだ!」
誇らしそうに語っていた。

この町のサッカーチーム、カーディフ・シティの試合を見に行った。ウェールズにも独自のリーグは存在するが、レベルの問題か彼らの好きな“伝統”か、いくつかのチームはイングランドのリーグに籍を置いており、このカーディフ・シティは現在イングランドの2部に所属している。というわけで見に行ったのはイングランドのリーグ・カップ。相手はプレミアリーグ所属のチームとあって、期待以上に盛り上がった。面白かったのは、チームのユニフォームだけではなく、『ウェールズ代表』のユニフォームやマフラーを纏った人が数多くいたことであった(ウェールズ代表監督が自殺したというショッキングな事件の直後だったことも影響していたかもしれないが)。見事イングランドのチームに勝利を飾り、客席にはウェールズ国旗が舞い躍った。

こうして、ウェールズでの滞在を終えた。遂にイングランドへと帰還を果たした訳だが、初めの町、ブリストルでいきなり度肝を抜かれた。あんなに大都会だと思っていたカーディフよりも、ずっとずっと大きく、人がひしめき合っていたのである。イングランドの地方都市よりも小さな首都。なんとなく、ウェールズの人々が自らの国にアイデンティティーを抱く理由の一端を垣間見ることができたように思えた。

懐かしの運河沿いを走り一路ロンドンを目指す。出発したのは8月なのにもう12月である。だが、行きの運河で見かけたようなボートは未だ存在していた。夏の間のレジャーだと思っていたがそうではなかった。一体何の魚が捕れるのか、釣り竿を垂らすおっさん。脇ではバリバリのドレッド・ヘアのおばちゃんが薪を割っている。冬を越す気満々じゃねーか。なるほど、こういう生き方もあるのだ。

そうして帰ってきたロンドンはもはや理解の範疇を越えていた。多民族。多国籍。常軌を超えたメガシティ。同じ国の都市として語るのも憚られるほど、全く異質で特殊な存在に感じられるのであった。
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