しもばの放浪日記

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You Must Enjoy The Game(日本×デンマーク@ルステンブルク)

ダーバンは去るには惜しい町だった。一度この気候を味わってしまうと、また寒地に戻るのが怖ろしくなる。この町が醸し出す雰囲気もまた格別である。リゾート的なところは本来あまり好きではないが、W杯のような祭りの時にはこういう場所の存在が実にありがたく思える。

ダーバンを去る夜にもこの町で試合があった。『ナイジェリア×韓国』、どちらにとっても決勝リーグ進出がかかる大一番。非常に面白そうなカードなのでぜひ見に行きたいと思ったが、あいにく夜行バスを予約してしまっていた。バスが発つのが23時。キックオフは20時半。試合が終わってバスターミナルに駆けつけるには少しばかり時間が足りない。試合後にサポーターが大盛り上がりする姿を見られないのももったいない。かといってバスを一日遅らせると日本戦には当日現地入りになってしまう。泣く泣く断念し、最大の大一番になるはずだった『南アフリカ×フランス』を観戦しにFan Festへ向かうことにした。

南アフリカの第2戦『南アフリカ×ウルグアイ』は、開幕戦と同じくブルームフォンテーン市内のホールで観戦した。会場は南アフリカ人で満たされた。試合前には早くも興奮がピークに達し、スクリーン前で人々が踊りまくる。
「この光景を見られただけでも南アでのW杯に参加した甲斐があった」
と、南アで再会した友人が語ったとおり、その熱狂はすさまじいものがあった。だが、あえなく敗戦。それでも翌日の『フランス×メキシコ』が引き分けに終わればまだ芽はあったが、フランスもふがいなく敗れ去り、南アの決勝トーナメント進出はほぼ絶望的になってしまった。第3戦でウルグアイがメキシコに勝ったとしても、得失点差の関係上、南アはフランスを"3-0""4-0"といった大差で破らねばならない。どうしても悲観的にならざるを得ない。

南アの人達はもうW杯に興味を失ってしまったのでは……そんな疑念を抱いていた。毎朝どこからともなく聞こえてきたブブゼラの音がダーバンではほとんど聞こえてこない。サッカーの話題になると人々の表情はどことなく寂しそうだ。

だが3戦目のその日、街は活気を取り戻していた。南アカラーのブブゼラを手に歩いていると、
"Blow Bubuzela!(ブブゼラを吹き鳴らせ!)"
と声が掛かる。うまく吹けずに苦戦し、笑われる。その光景を見てか、通りすがりの車からもブブゼラ攻撃だ。人々の顔は開幕戦同様に明るかった。彼らにとってのW杯は終わってなどいなかったのだ。

Fan Festへたどり着くと、ビーチはバファナ・バファナ(南アフリカチームの愛称)のユニフォームを着た人々で埋め尽くされていた。きっと皆、自国の最後の(になるであろう)雄姿を見届けにきたのだ。そういう意味では相手が強豪フランスというのはドラマとしては最高だったのかもしれない。三度目となる南アフリカ国歌。人々が合唱する姿に毎回感動させられる。キックオフ。序盤から南アの猛攻が始まった。1点目。2点目。会場全体が爆発する。それを後押しするかのようにウルグアイがメキシコをリードしているというアナウンスが。なんてことだ。あと2点取れば奇跡のグループリーグ突破を果たすことが出来る。人々の熱気に囲まれていると、それも不可能ではないと思えてしまう。


ハーフタイム中のFan Fest。人々は奇跡を信じていた。

筋書き通りにはいかなかった。後半フランスに1点を返され、南アフリカの夢は破れた。悲願の一勝を挙げたものの、W杯史上初、ホスト国のグループリーグ敗退が決定してしまった。第2戦を終えた時点で半分諦めかけていたのだろうか、人々の表情はそこまで悲しみに暮れたものではなかった。輪になって踊っている人々の姿も見える。きっとこの祭りの余韻を最後まで楽しみたいのだろう。そうだ、彼らはフランスを破り一勝一敗一分けでW杯を終えた。胸を張ったっていいはずだ。人々が狂喜する姿を最後まで見られなかったのは残念だったが、ただ一国を除いて全ての国がいずれは失望を味わうことになるのだ。

Fan Festを後にすると、スタジアムへ向かう人々と合流した。『ナイジェリア×韓国』、ブルームフォンテーンでのカメルーン戦とは異なり、この街には旅行者がたくさんいる。驚いたのは韓国のユニフォームや国旗をまとった西洋人の姿が多く見られたことだ。なんだかんだ言っても2002年の足跡は大きなインパクトだったのか、それとも世界的に有名な選手がいるせいか
ひょっとしたらマンUファンあたりも韓国を応援するのかもしれない。だが、それ以上にきっと韓国のプレーには人を引き付ける何かがあるのだろう。なんだか嫉妬を覚えてしまう。

『日本×デンマーク』の会場となるルステンブルク。郊外の自然公園にキャンプ場があるというのでテント泊することにした。寒いが安いので文句は言えない。そこでもやはりW杯観戦。他の宿泊客のアメリカ人が『アメリカ×アルジェリア』が見たいと主張。ほんとは裏でやってる『イングランド×スロベニア』が見たいのに……。まあ夜には『ドイツ×ガーナ』があるのでいいや。ここは譲ると、夜は夜でオーストラリア人が現れ『オーストラリア×セルビア』を見たいと主張。そう、今回W杯に参加して驚いたのは、アメリカやオーストラリアからも多くのサポーターが観戦に訪れていることだった。もちろん色んな人間がいるのでサッカー好きがいるのも当たり前なのではあるが、その数は想像以上に多かった。ダーバンのビーチでも星条旗が翻った。ダーバンのクリケット場はオーストラリアのサポーターズキャンプになっているとのことだった。

初めは不満を抱きながら見ていた『アメリカ×アルジェリア』だが、引き分けでも敗退となるアメリカがロスタイムの決勝ゴールで一転グループリーグ首位突破を決めるという劇的な展開。次の『オーストラリア×セルビア』も、セルビアが同点に追いつけば裏で試合をしているガーナが敗退してしまう。最後までハラハラさせられた。改めて無駄な試合など一つもないのだと実感。ガーナ、アフリカ勢で唯一残って良かった。オーストラリアは南アフリカと同じく得失点差に泣いた。

明日の『日本×デンマーク』、引き分けでも突破できるというアドバンテージはやはり大きい。裏のオランダとカメルーンが共に突破と敗退が決定しているので、その試合を気にせずにすむというのもありがたい。一極集中!実に恵まれた状況ではないか。

個人的には南アでのW杯に疑問を抱くことなど今まではほとんどなかったが、ここルステンブルクはその脆さを露呈していた。町からスタジアムまでがあまりに遠い。20km近くあるという。今大会最もアクセスの悪いスタジアムだそうだ。更にはルステンブルクの総ベッド数は15000ほどしかなく、スタジアムの収容人数を大きく下回る。そのため客のほとんどはヨハネスブルクあたりから車でやってくる。町にあるFan Festは試合当日というのにガラガラ。道にも全く外国人の姿がない。

スタジアムへ行くには車で30分ほどかけて郊外の駐車場へ。そこから更にシャトルバスで30分、スタジアムへと運ばれる。自分の場合は宿から送迎が出たが、この車ありきのシステムは本当にどうにかして欲しい。もちろん、自分は今のこの町の姿しか知らない。W杯が開催されることで整備されたり活性化された部分もあるのだろう。だが、この町での初戦となった『イングランド×アメリカ』では渋滞、更にシャトルバスにも長蛇の列が出来、ハーフタイムまでスタジアムに入れない人もいたそうだ。

余裕を持って出たおかげで、キックオフの一時間半前にはスタジアムに到着。今までの試合と異なり、日本人以外にも日の丸を掲げる人が見られるのはなんとも嬉しい。デンマーク人は日本人同様、おとなしいというか謙虚な気質なようだ。いよいよ決戦。次第に気合は上がってくるが、拍子抜けするほどスタジアムはガラガラ。アクセスの悪さやカードの地味さもあるのだろうが、およそW杯とは思えない。



素晴らしい試合だった。
「日本はハートで戦う良いチームだ」
前日に同宿のイングランド人が語っていた。社交辞令程度に受け取っていたが、まさにその言葉どおりの戦いを見せてくれた。かつてはサッカーに対して、クールなスポーツという印象を抱いていた。だが、今大会の日本代表は実に熱く、そして泥臭く戦っているではないか。ひょっとしたらアジアが他の国々に誇れるのはその部分なのではないかと思う。“集中力”と“がむしゃらさ”。一見相反するように思える要素が噛み合うことで、相乗効果を生み出している。必死で戦うことによって集中し、集中することによって更なる力が産み出される。個の力では劣る相手に組織力で戦う。それはわかる。そこに気迫が加われば、相手が
真に恐れるチームになれるのではないか。

周りに座る南アフリカ人も一丸となって日本を応援してくれた。突然、彼らの歌と踊りが始まる。「ニッポン!ニッポン!」日本人が合いの手を入れる。ブブゼラの音も吹き荒れる。日本のプレーが更に客席を熱くする。もっとも、お祭り好きな彼らのことだ。デンマークのサポーターが周りにいたらデンマークを応援していた、それだけのことかもしれない。だが、この日の日本代表は明らかに人々を魅了しているように思えた。

スタジアムの空席だけが本当に残念だった。もっともっと多くの人と共にこの試合を味わいたかった。自分は日本にいないので、日本にいる人が南アをイメージで捉えていたのと同様、人から聞いたイメージだけで語るにすぎない。それでもあえて言わせてもらう。一体誰だ?三戦全敗などと言っていたのは。確かに自分も当初は全く期待を抱けずにいた。今大会のような戦いを今まで見せられなかったのが空席を生んだ最大の要因ではあるだろう。だが、一体誰だ!?南アフリカがまるで戦場でもあるかのように煽っていたのは。大会を成功させるのはホスト国の力だけではない。参加国にもまた、それを盛り上げる義務があるように思う。開幕に当たって、ネルソン・マンデラは言った。
"You must enjoy the game"
試合が終わり、日本のサポーターは歓喜に沸いた。周りの南アフリカ人からも拍手が起こった。なんと気持ちの良い奴らだろう。先日南アの敗退が決まったばかりだというのに、彼らはまだまだW杯を楽しもうとしているではないか。







帰りのシャトルバスには長蛇の列が出来ていた。
バスに乗るまでに一時間近くかかった。気分が良いのでなんということはなかったが、デンマーク人の心境はいかほどのものだろう。ようやく宿からの迎えの車にたどり着くと、デンマーク人の夫婦も乗っていた。なんとも気まずい。だが、向こうから「おめでとう」と声を掛けてくれた。まだ一人戻ってきていないらしい。探しに行こうと車外に出る運転手をその夫婦が呼び止める。
「寒いからマフラーしていって。デンマークサポーターになっちゃうけど」
悲嘆に暮れた後でも人への優しさを忘れない、彼らの姿もまた印象的な夜だった。

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