しもばの放浪日記

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ペルシャ湾を越えて
イラン
↓10.19
UAE




湿気を含んだ生暖かい風が全身を包む。目の前に広がるペルシャ湾。テヘランから列車で一気に下り、バンダル・アッバスという港町にやってきた。

色々と悩んだあげく、イランから船でUAEに渡るという道を選んだ。そのままトルコ、そしてヨーロッパへ抜けるのが一番楽なルートではあったのだが、まあ様々な要素が重なった上での選択である。すべては「インシャラー(アッラーの意のままに)」であろう。イスラム圏ではこれ一言で説明がつくのでとっても楽だ。

UAE行きの船はほぼ貸し切り状態であった。自分以外の乗客はドイツ人の老夫婦が一組だけ。ドイツからずっとキャンピングカーで旅をしているので、車を運ぶ必要があったのだという。飛行機がとても安くなっている今、やはり船の需要も減っているのだろう。

UAE。United Arab Emirates。アラブ首長国連邦である。一体いつからUAEという呼称がこうも一般的になったのだろうか。考えてみると、こういった英語表記の略称が日本において定着した国って他に例を見ない気がする。一番メジャーでやはりUSA。ソ連なんて無理くりな略称が可能だったんだから“ア連”あたりで落ち着いても良さそうだったのにも関わらず、UAE。不思議である。

そんなUAE。その名の示す通り、それぞれの首長が治める7つの首長国が連なって形成されている。船がたどり着いたシャルジャという町があるのがシャルジャ首長国、首都アブダビがあるのがアブダビ首長国。そしてとUAEいえばやはりここ!自分が向かったのはドバイ首長国の首都、ドバイである。

ドバイといえばあれだ。世界中の金持ちの集まる、それはそれはリッチでハイソなPLACEである。自分みたいな小汚い旅行者が行ったらさぞかし浮いてしまうに違いない。そんな不安(いや、どちらかと言うと期待だろうか)を抱いていた。だがしかし、やはりどこも行ってみなければわからない。実際に街に立ってみると、それはそれは驚いた。

インド人!インド人!インド人!見渡す限りのインド人の群れ。あちらもこちらもインド人。犬も歩けばインド人。ドバイはインド人に制圧されていた!

いや、自分のちっぽけな懸念など一瞬にしてひねりつぶされるほどのインド人の数。本来最も多くあるべきのアラブ系住人を完全に凌駕している。地理柄、アフリカ系の人もちらほら見える。中華系や東南アジア系はほとんど見かけないが、きっといつものごとく彼らが集まるテリトリーがあるのだろう。

今まで会ったことのないサウジアラビア人やリビア人などとも知り合った。ひさしぶりの多民族のごった煮(とはいえインド人が大多数)である。ちょっぴり嬉しかった。誰からも外国人扱いされないからだ。街を歩いていても、好奇の目にさらされることもない。旅先では、興味持って近付いてくる人や親切にしてくれる人もとても多く、それはもちろん実にありがたいのだが、反面、常に注目されつづけるというのはやはり疲れるのである。おちおち鼻もほじっていられない(ほじってるけど)のである。たまにはこういう環境もいいものだ。そういう意味では、ひさしぶりにリラックス出来る場所だと言える。

ひさしぶりは他にもあった。中国の成都ぶりに出会ったマクドナルド。自由経済の象徴だ。英語がほぼ公用語。インド訛りは強くとも、こちらもジャパン訛りなので言えたことではない。ショッピングモールの本屋に行けば英語の本が立ち読みし放題。シネマコンプレックス。インド映画多し。黒服のリッチなお姉ちゃんたちが買い物を楽しんでいる。



だが、先進国として捉えると、どうにも粗が見えてしまうことも多い。特にひどいのが市内交通。都市の構造やら性格からして、どうしても
「東のシンガポール、西のドバイ」
という意識で見てしまいがちなのだが、それがそもそも間違いなのかもしれない。この町の交通システムははっきり言って潰滅している。ここドバイ、なんと最近通ってきた国ではまずお目にかからなかったバスの時刻表というものが存在していた。驚いた。賞賛した。だが、これを信じたのが間違いだった。

途上国などでは、時刻表などないものの、満員になるのを待つことはあっても、車を待つということはほとんどない。とにかく、乗せて周って稼ぐという感じで、常に次の車が待機している。なのにここドバイ、いっちょまえに時刻表なんか用意して近代国家ぶっておきながら、まったくもってでまかせである。常に道が渋滞しているのが理由の一つではあるのだろうが、週末の夜など、1時間半待って2台しかバスが来なかった。なぜ2台かというと、1台目は満員だという理由で乗車拒否されたのだ。これだけ皆が乗れずに困っているのだからミニバスを走らすだとかすればいいのにそれもない。タクシーの数もどう見ても足りない。あきらかに供給不足なのになぜ手をつけないのか謎である。渋滞緩和のためだろうか。不満なら車を買え、ということなのかもしれない。対策の一つではあるのだろう、近日(来年からという話を聞いた)電車が開通するらしく、街中が工事中。これがまた間違いなく現状の渋滞に拍車をかけている。ちょっと前に流行った言葉で言えば、
『痛みを伴う構造改革』
というやつなのかもしれない。しかし、こうなる前になぜもっと早く手を打たなかったのか。

結局、滞在していた日程のほぼ大半を『バス待ち』に費やした。そう言っても過言ではない。常にイライラしていたせいか、ドバイでは毎日のように口ゲンカしていた。大都会が持つ性格なのかインド人のせいなのか分からないが(これだけインド人が多いと、どれもこれも「インド的」なのかと勘ぐってしまう)、なんだかこの町、人の愛想が悪いのである。とりわけ泊まっていたユースホステルのレセプションは最悪で、宿を出るときカギを預けろというので預けたのに、帰ってみると「鍵がない」と言う。探せと言ったらカギの束が詰まった箱をどんと目の前に置いて、
「この中から探せ」
ふざけんな!!

いやはや、ほんとに疲れる町だった。だが、いざ離れるとなるとやっぱり名残惜しくなるもので……そういえばドバイの下町的なところしか訪れなかった。 リゾートエリアなんかに行けばまたこれぞドバイって光景が見れたに違いない。7つ星ホテルもあるらしい。次に来たらまた別の顔のドバイを楽しむのもいいかもしれないな、などと思っているうちにまたしても目の前をバスが通り過ぎていった。乗車拒否。最後までこれか!!!


アラビア半島限定?マックアラビア。
イエメンは裏切らない
UAE
↓10.24
オマーン
↓10.31
イエメン


UAEからオマーンへ陸路入国。この国もやはり金持ち臭がぷんぷんしていた。国境のイミグレーションからして違った。ATMでお金が降ろせる。なぜだかピザハットがある。国境でビザ取得ができるため、「待っている間ちょっとくつろいでいてくれたまえ」ということなのだろうか。ビザとピザを掛けているのか(絶対違う)。モニターが設置してあり、ケーブルテレビでハリウッド映画なんかが流されている。そこまで気を遣っていただかなくとも……。

日暮れた道を首都マスカットまで突っ走る。砂漠のところどころにぽつぽつと工場が建っている。暗闇の中、ちらちらと明かりが灯っているのが見えて興奮した。これがつまりあの産油国の象徴、煙突の上に炎が燃えているやつなのである。

会う日本人日本人に、
「オマーンって何があるの?」
と聞かれたが、行く前から想像していたとおり、特に何があるというわけでもなかった。とりあえず宿代が高い!出費的にはドバイとほぼ変わらず。まあドバイが25ドルでドミトリーのところをオマーンは個室というだけまだましではあったが、要するに安宿というものが存在しないのだ。首都マスカットは非常にきれいな町だった。『きれい』というのは、『クリーン』という意味だ。本当かどうかはわからないが、知り合ったインド人は、
「マスカットは世界で2番目に、シンガポールの次にクリーンな町なのだ」
と自慢していた。やはりこの町にもインド人は多かった。


オマーンには可愛らしいモスクが多い。

ついについに、イエメンにやって来た。イランからアラビア半島というルートを選んだのも、この国の存在が極めて大きかった。正真正銘憧れつづけていた国なのである。

だが、オマーンからバスでイエメンに入ったとき、何よりも強く印象付けられたのは、その『貧しさ』であった。アラブ最貧国とはいえ、隣接しているオマーンと比べて、国境ひとつ越えただけでこんなにも景色が変わってしまうのか。衝撃だった。
「趣きがある」
言葉を変えればそう表現できるのかもしれない。だが、その一言で語るのは乱暴すぎるようにも思えた。

ずっと見たいと思い続けていたサナアの旧市街。それだけに、実際に訪れるのが恐ろしくもあった。期待が高ければ高いほど、実物がその期待に追いつかないというのはよくあることで、更には、旅も長期になればなるほど色んなものに見慣れていってしまう。憧れていたそれに対面することによって、自分の感受性が磨耗しているという事実を真正面から突きつけられてしまうのでは。そんな恐怖がどこかにあった。

実際、旧市街の門の前に立ったとき、かつて雑誌で写真を見たときほどの興奮も感動も得られなかった。その落胆に、門をくぐって街を歩き回る力が沸かなかった。

イエメン人は昼間になると草を噛みはじめる。“カート”と呼ばれるそれは、噛み続けると軽い興奮作用をもたらすらしく、朝摘みたての新鮮なカートが昼には町にやってくる。その大量のカートがたった一日で消費されるのである。午後になると道の脇はカートを噛み噛み、恍惚とした表情の人たちで埋め尽くされる。働きながらもカート、道に立つ警官もカートである。隣のサウジアラビアやオマーンでは違法らしいが、ここイエメンでは合法。オマーンからイエメン行きのバスでも、国境を越えたとたんに乗客が売店に走り、みんなごっそり買い込んでいた。

国中をあげてのサブリミナル効果にすっかり乗せられ、自分も挑戦してみることにした。これをやらねばイエメンを語れない。旧市街を歩く気力を失った自分は、これこそが真のイエメンを知る手段なのではと言い聞かせ、昼間から果敢に噛みはじめた。そう、この草、食べるのではない。噛む。噛み続けるのだ。イエメン人は器用にこぶとりじいさんのごとく、リスの頬袋のごとく、次々と一方の頬にカートを溜め込んでいく。だが、試してみてもどうにも上手くいかない。どんどん口の中の草が減っていく。口内のあちこちに散らばったそれらをひとつにまとめ上げるべく、水などを補給しつつ体勢を立て直そうとするのだが、そのつど一緒に飲み込んでしまう。気付けばすでに一袋がなくなった。全部食べちゃったのだ。イエメン人が普通にやっていることをなぜできないのか。悔しいのでもう一袋。しかし、やはり食べてしまった。結局合計5時間くらい噛み続けたものの(通常、2時間くらいは続けないと効果が現れないと言われている)これといった変化は感じられず、と自分では思っていたが、その日の夜はやっぱりちょっと饒舌だった気がする。布団に入ってもしばらく寝付けなかった。そして、二袋も食べきってしまったため、予想どおり腹を壊した。

だが、真に恐ろしいのはその翌日だった。なんだか喉がやたらと痛い。鏡を覗くと、のどちんこの先が真っ白!他にも喉の入り口に無数の口内炎が出来ていた。そう、あとになって知ったのだが、慣れていない人が噛みすぎると口の粘膜に炎症をもたらすらしいのだ。ただでさえ口内炎が出来やすいのにそのうえ過剰摂取。重症であった。とにかく何をしていても痛い。何もしていなくても痛い。あまりの痛みに数日後には偏頭痛まで併発した。もちろん、飯を食べることほどツライ作業はない。こうなってくると、上手そうに食事する人々の姿がうらやましくて仕方なくなってくる。こうなってはじめて、イエメンには上手い飯が溢れていることを思い知らされた。

人間というのは勝手なものである。口内炎に苦しむ日々が終わると、町の姿が今までと変わって見えた。すべてが喜びにあふれている。生きているってすばらしいのだ!

心機一転、旧市街の中を歩き回ってみた。現存する世界最古の町と呼ばれているこの町。“世界最古”ということ、古めかしくて“趣きのある”デザイン、かつて雑誌で見たときにはそのことに心惹かれた。だが、実際はそれだけではない。町を歩いていて目に映るのは、駆け回る子供、市場で買い物をする女性、笑いながらカートを噛むおっさんたち、そこで繰り広げられる人々の営み。古き姿を残しながらも町がそのものが今もなお“生きている”、本当の魅力はそこにあるのだと気付かされた。





そして、イエメンの最大の魅力、それは何より『人の良さ』であると思う。首都であると同時にイエメンの中でも最大の観光地でありながら、ここサナアの人の良さはどうしたことか。金を持って集まる観光客からふんだくってやろうという意識がまったく感じられない。もともとイスラム教には“客人をもてなすべし”という教えがあるそうだが……。あるときに言われた言葉。
「イエメン人は『値下げしてくれ』と言われれば旅人のために値下げしてしまう。お前らは金を持っているのになぜそんなことを言うんだ」
他の国ではぼったくられることも多いので、どうしたって値段交渉が必要になってくる。それは旅のテクニックの一つだ。だけどその一方で、たしかに値段交渉そのものがゲーム感覚になっている瞬間があるのも事実だ。

ある町への移動途中、昼飯どきに食堂に立ち寄った。特に腹も減ってなかったのでチャイだけ注文して飲んでいると、傍らのイエメン人が話しかけてきた。何を言ってるのかわからないのでとりあえず笑いながら頷いていると、なんと金を差し出してくるではないか。どうやら、
「どうした?飯を食う金がないのか?」
と尋ねていたらしいのだ。もちろんそれは受け取らなかったが、なんという懐の深さだろうか。短刀を腰に差し、昔ながらの民族衣装を体に纏ったイエメン人たち。貧しいながらも確固たる誇りに充ちている。素朴で温和な表情の奥に。「貧しいことが良いことだ」という結論には絶対にしちゃいけないとは知りながらも、観光客が増え続けるとその姿も変化していくのかと思うと、旅人とはやはりどこかで有害な存在なのだろうかと考えてしまう。

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